8/13/2014

静寂

滞在121日目。8月13日(水)の午前4時30分。

太極拳を練るときのイメージとして,虎が獲物を狙うように動く,という例えをスティーブは使うけれど,昨日はもう一つ面白い例えを使っていた。

寝ている赤ちゃんを起こさないように。

寝ている赤ちゃんのそばを通らなければならない経験がある人はわかるはずだ。赤ん坊は寝るのが仕事であり,せっかく寝ているところを絶対に起こしてはならない。そのために,音を立てないように静かに歩く。抜き足差し足忍び足。

抜き足差し足をするためには,片方の足にしっかりと体重が載っていないといけない。そしてもう一方の足を移動して,ゆっくり体重を移動する。

だから,太極拳の稽古中は,スティーブがする説明のための声以外は,何も音はない。聞こえてくるのはせいぜい,風の音や鳥の声ぐらいだ。

よく日本の太極拳教室なんかだと,中国のゆっくりした音楽が流れていたりするが,あれは止めた方が良い。YoutubeやDVDなどでもなぜかそういう中国の音楽がバックに流れている。確かに,こういう感じでゆったり動きましょう,とリズムに合わせる効果というのはあるかもしれないけれど,太極拳本来の良さが削がれる気がする。太極拳は,もっと心を静かに穏やかにしていくものであり,そのためにはむしろ,音楽さえも要らない。

つまり,本来,太極拳を練るには,何もない方が良いのだ。自然になることを,自然と一体化することを求めているわけだから,そこには,たとえ柔らかでゆったりした中国の音楽であろうと,人工的に作り出した音は必要ない。

そう。スティーブの太極拳教室に最初に顔を出して,何か違うなぁ,これはいいなぁ,と思った大きなポイントは,この,バックに中国風の音楽を鳴らすという,太極拳教室にありがちな付随物がないというところだったことを,今更ながら思い出した。

そうした静寂の中で太極拳を練るのが良いのだ。取って付けたような音楽など必要ない。

静寂の中,ときに風が吹き抜け,ときに鳥のさえずる声が聞こえる。太極拳とはこういうところで静かに練るものなのだ。音楽など鳴っていたら,それに気を取られてしまう。ありがちな中国の音楽を流して,雰囲気を中国風に仕立てる必要など全くない。

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