8/19/2014

欲望

滞在127日目。8月19日(火)の午前3時30分。

さて,いよいよ,今日,帰国する。9時にはタクシーを呼んである。お昼前の便に搭乗予定。ホノルルに4ヶ月強住んだわけだが,やっぱり長かったなぁ,うん。

昨日は,スティーブの太極拳の,最後の稽古だった。また是非いずれ習いに来たいと思っているので,最後の稽古というのは,とりあえず,今回の滞在で最後ということで。

また一つ面白い話をしてくれた。太極拳は,上手くなりたい(よくなりたい)と思うと,身体が緊張して力んで硬くなって,なかなか上手くなれない。だから,上手くなりたいという欲望(desire)は,捨てた方が良い。欲望を捨てることで,身体がリラックスして,そのうち上手くできるようになる。上手くなりたければ,上手くなりたいと思わない方が良い,ということだ。

これは真理である。

太極拳とは,身体で得た真理を人生全体に広げていく(あるいは人生の本質あるいは哲学を太極拳を通して理解する),そういう身体哲学なのだ。スティーブの師であるPang先生のいう,「太極拳は哲学だ」ということの一つの意味は,たぶん,そういうことだと思う。

○○したいと思うほど,○○できないから,○○しない方が良い。

繰り返すけれど,これは真理である。

例えば,心理学的にも,幸せになりたいと思えば思うほど,実は,幸せになれないことが分かっている。だから,幸せになりたければ,幸せになりたいと思わない方が良いのだ。それから,思考抑制のシロクマ課題の通り,思考を抑制しようと思うほど皮肉にも抑制できないから,抑制しようと思わない方が良いのだ。

このことを強引に一般化すれば,要するに,あらゆる欲望は捨てた方が良いのである。

仏教的には,欲が苦を生むから,欲を捨てよと教える。道教的には,過剰な欲は陰陽のバランスを崩すから,欲を抑えよと教える。欲を捨てたり減らしたりしたところに,本質的な安穏がある。

スティーブがこの欲望の話をし終わったとき,隣にいた御年85歳のLilianおばあちゃんが僕の腕をつつき,「Remember this」と僕の目を見てそっと言った。今のスティーブの話,よく覚えておきなさい,という意味だ。よく覚えておきます。Lilianおばあちゃんとは最後,ハグをしてお別れした。どうもありがとう。

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