滞在103日目。7月26日(土)の午前8時30分。
スティーブの太極拳の系譜について誤解していた。改めてちゃんと教えてもらったところ,スティーブの師匠は,T.Y.Pangという人であった。この人は,今の楊式太極拳を完成したとされるYang Chengfu(楊澄甫=楊露禅の孫)の直弟子であるDong Yingjie(董英傑)の弟子である。
つまり,系譜を辿れば,楊露禅→楊澄甫→董英傑→T.Y.Pang→スティーブ,という具合である。
Dong Yingjieと以前言っていたので,その孫筋がハワイを中心に展開している薹家太極拳だと勘違いしていた。Pang先生も以前ハワイで教えていて,今はワシントン州のオーカス島に住んでいる。
Pang先生についてスティーブは,この人は本物だ,と言っていた。最初に2年間習っていた太極拳の先生とは比べものにならないくらい凄くて,一度Pang先生の演武を見たら,その元の先生のところに戻る気がしなくなった,とも言っていた。
ネットで検索していたら,あるイベントチケットの販売サイトに,シアトル歴史・工業博物館で開催されたPang先生の演武会の案内があった(http://www.brownpapertickets.com/event/6096)。そこに簡単な説明があり,このPang先生そしてスティーブの哲学が端的に示されている気がした。だいたい次のようなことが書いてあった。
「太極拳とは護身術,フィットネス,リラクセーションの方法と思われている。それも間違いではないけれど,それが本質ではない。太極拳というのは,気づきをもって,生命力ある身体と静かで平和な精神に至らしめるものであり,健康で幸せで平和であることが,スピリチュアルな成長をもたらす。真の太極拳家の動きはダンスとなり,そのダンスにはスピリチュアルな意味で生命の力が身体化している。心が振り付け師であり,身体がアーティストであり,生命の力が音楽である。だから,太極拳とはスピリチュアルな生命のダンス(A Dance of Spiritual Life)である」
道教的な考えがベースにあることは間違いない。そしてスティーブは,稽古でまさにこのことを伝えようとしている。Community Centerに習いに来ている人の大半はフィットネスやリラクセーションのつもりかもしれないけれど,その中で懸命に,この太極拳の本当の意味を伝えようとしている。
世の中によくある制定の簡化24式太極拳とかの教室やスポーツジムとかでやっている太極拳クラスのように,ただ動きだけを教えよう(動きさえ正確に伝われば良い,ただ動きを正確になぞることが最重要である)としたり,あるいは,公認の級段位を取るとか表演大会で勝つとかするために見た目に綺麗に演じることが最善だと考えていたりする指導者とは,理解と志の次元が格段に違う。
いやもちろん,そんな本来の意味なんてどうでもよくて,ただ単にフィットネスやリラクセーションの一つとしてやりたい人にとっては,世の中によくある教室で良いわけであって,要するに,世の中というのは需要と供給がマッチしている,ということか。
Pang先生は,1987年に"On Tai Chi Chuan"という本を書いている。読んでみたい。
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